癌と活性酸素(2)

活性酸素の両面性

活性酸素は、異物と判断した細胞を消去する細胞にも影響を与えているかもしれません。

キラー細胞も癌細胞を片づけると時には、活性酸素の力を利用しているはずですから、正常にこれらの機能が働いているうちは良いのですが、活性酸素も両刃の刃で、反転するとマイナスの仕事をしてしまう事も十分考えられます。

 

体の中には、こうした例がたくさんあります。

一例をあげると、細菌が侵入してくると、白血球が出てきて活性酸素を吹きかけて細菌を殺します。

この細菌が侵入されたところでは、緊急事態を発して白血球を呼び集めるのにどうするかというと、サイトカインという物質を出して知らせます。

サイトカインが出されると、白血球がその場所に集まってくるという仕掛けです。

ところが、年をとったり、体が弱っていたりすると、特に最近が侵入したわけでもないのに、あちこちの臓器が勝手にこのサイトカインを出してしまい、白血球が集まってきて活性酸素をまき散らすという事態が起きます。

これは、コントロールを失った軍隊みたいなもので、自分で自分を破壊してしまう事になります。

ですから、癌の場合でもこうした複雑なせめぎあいがあって、長い間かかって癌という病気が顕在化してくるわけで、これまでの間水面下でがん細胞とそれを阻止するシステムが攻防を繰り返しているというわけなのです。

残念ながら、活性酸素がどのような段階で、どのように関与しているかはまだ細かい点でよくわかっていませんが、活性酸素やフリーラジカルががん発症の引き金を引いていると考える研究者が増えてきたのも事実です。

 

活性酸素を利用したがん治療法

活性酸素は、DNAを傷つけて癌を発生させるかもしれない、というものですが活性酸素の作用を逆手に取って癌細胞をたたくという治療法があります。

癌に対する各種の放射線治療法は、癌のできている部分に放射線を照射し、そこに活性酸素を発生させて癌細胞を破壊する治療法です。

放射線はがん細胞だけでなく、近くにある正常な細胞も破壊してしまう恐れがあるので、正常な細胞を傷つけないように、照射する方法、照射する量などいろいろ工夫が凝らされています。

 

薬でがんを治す治療法を化学療法といいますが、この薬を抗がん剤といいます。

抗がん剤は色々なものが開発されていますが、そのうちのアドリアマイシンやブレオマイシン、シスプラチンなどは、体内で活性酸素を発生させて癌細胞を破壊する薬です。

そのために、アドリアマイシンは心臓の筋肉に、ブレオマイシンは肺に、シスプラチンは腎臓に副作用を起こしますが、これもフリーラジカルや脂質の異常な酸化が遠因とみられています。

癌細胞だけでなく正常な細胞まで壊してしまう結果の副作用です。

 

このように、抗がん剤も正常な細胞を壊してしまうため、投与する量やその他の治療法と組み合わせて副作用の起きにくい環境を作る工夫もされています。

また、抗がん剤をがん細胞だけに集中させ、正常な細胞には触らせないようにするミサイル療法も工夫されています。

その他にも、癌細胞に集まりやすい光増感剤という薬をがん患者に与えておいて、レーザー光線を当てて治療する方法もありますが、これも活性酸素を発生させて癌細胞をたたく方法です。

毒を以て毒を制す、という言葉がありますが、活性酸素の毒性を利用して癌細胞をたたくという方法は、ちょうど白血球が侵入してきた細菌を活性酸素でやっつけるのと同じ方法で、制癌剤を長期にわたって服用し続けると癌細胞は死滅しますが、一方で新しい癌を作ってしまう事にもなりかねません。

制癌剤にはそうしたむずかしさがあるのです。

そもそも癌細胞は、低酸素状態の細胞に発生します。

そこで、低酸素状態の細胞に、酸素が送り込まれると細胞が活性化するということが近年分かってきました。

そのことについて、末期がんの診察をされている白川先生がいらっしゃいます。

 

癌はビタミンで予防できるか?

さて、活性酸素と癌の攻防はミクロの世界の出来事で、顕微鏡でも見えない小さな世界ですから、どのように活性酸素が関わっているかは、その実態を観察する方法の開発にかかっているといえます。

そうした努力と平行して目でも確かめられる様々な経験的な現象からも、活性酸素とのかかわりあいを調べていく方法もあります。

ご承知のように、癌は歳をとるにしたがって発生の頻度が急速に増加してきます。

これは体の中で起きる活性酸素の活動を消去する能力が低下してきたためだと考えることが出来ます。

ヨーロッパやアメリカで実施されている多くの疫学調査の結果では、酸化防止剤であるビタミンE、ビタミンC、ベータカロチンの血液中の濃度の高い人ほど癌にかかる割合の少ないことが分かってきています。

ある調査では、1975年に約2000人の食事調査をして、その後、19年間、肺がんにかかった人や肺がんで亡くなった人を調べてみました。

すると、亡くなった人33人中、25例がベータカロチンの摂取量の少ないグループに属していたのです。

また、肺がんの発生と喫煙とベータカロチンの摂取量との三者の関係では、長期にわたって喫煙をしていてベータカロチンの摂取量の少ない人は、そうでない人に比べて肺がんにかかる危険率は約7倍にもなったという事です。

このように活性酸素が細胞膜や生体膜の材料である不飽和脂肪酸を破壊してしまうメカニズムの解明や動物での実験、世界的に行われている疫学調査の結果などを総合すると、癌と活性酸素には関係があるのではないかと疑ってみるのは、十分意義のあることです。

細菌は成人病検査が普及して、癌も早期に発見できるシステムが出来てきましたので、癌の治る率も向上しています。

しかし、何と言っても癌にならない工夫をすることが最良の選択です。