活性酸素を防ぐ(1)

酸化を防ぐ仕組み

人と酸化は無縁のものという認識が現在では崩れ始めてきて、老化や癌をはじめとした各種の成人病の原因に活性酸素が大きくかかわっているということが理解されてくると、それではどうやって酸化を防いでいるかが関心の的になってきました。

 

もちろん、人の酸化に対する防御システムは実に巧妙に出来ていて、十重二十重に構築されているのです。

その防御システムを明かすと、数多くの種類の「抗酸化物質」から成り立っているのです。

食品のラベルを見るとよく「酸化防止剤配合」と表示されていますが、これが抗酸化物質(スカベンジャーといった呼び方をします)なのです。

人に使われている抗酸化物質を大きく分けると、まず酵素があります。

そしてたんぱく質もその一員です。

さらにビタミンも重要な抗酸化物質なのです。

 

このように多種多様な抗酸化物質がありますが、その配置状況を見ると大きく分けてみると、脂肪膜や生体膜のように脂でできている所には脂に溶ける性質の抗酸化物質が、細胞質のように水の層になっている所には水に溶ける性質の抗酸化物質が配置されているのです。

自然は自然の法則に逆らわず、むしろこれを利用するということになっています。

活性酸素は酸素のある所ならばどこでも発生しますから、このような様々な抗酸化物質を人体のあらゆるところに配置して万全を期しています。

この中からいくつかの重要で話題性のある抗酸化物質を見ていきましょう。

 

スーパーオキシドを過酸化水素に

まず、代表的な抗酸化物質として挙げられるのは、スーパーオキシドジスムターゼという酵素です。

略してSODといいます。

このSODの仕事は、最もポピュラーな活性酸素であるスーパーオキシドを消去する(不対電子のある不安定な状態を消し去る)ことで防御システムの第一段階です。

ところで、面白いことに、このSODはスーパーオキシドを消去して無害な酸素にしたかというとそうではなく、過酸化水素に変えるだけなのです。

たいしたことではなく、「活性酸素」を「活性酸素」に変えるという仕事をやっているわけです。

ということは、活性酸素を一度に消去するのではなく、段階を経て消去していくというやり方がこのシステムの特徴です。

SODによってスーパーオキシドは過酸化水素になり、さらに次々に現れる抗酸化物質によって還元されます。

そしてこの還元を4回ほど繰り返し、ついには水にしてしまうという経緯をたどります。

水はH₂Oですから、活性酸素の成れの果てとして理解しやすいところです。

水は大変安定した物質で、水にしてしまえば暴れ者の活性酸素も安心というわけです。

 

SODは自力で作る

SODという抗酸化物質は数分で半減してしまうとても短い時間しか存在しません。

体の中でたくさん作ってたくさん消費するといったタイプの抗酸化物質です。

小動物でもこのSODをもっているのですが、メダカでその量を観察すると、夏の活動期はSODが多く、冬の日活動期には減少するという研究があります。

ですので、運動量に合わせて生産をコントロールしているという性質のようです。

人の場合もお年寄りを調べたところ、SODをたくさん持っている人の方が少ない人より長生きだという調査もあります。

霊長類の中でも人は抜群にSODをたくさん持っているのですから長生きだということになると、それではSODwお体の中で増産することは出来ないのだろうかと考えたくなります。

そこで、SODを人工的に作って人に投与したら良い結果が出るのではないか
、という期待が高まりますが残念ながらまだ成功していません。

SODを人工的に作って点滴で投与している間は確かにSODの量が体の中で増えているのですが、点滴を止めると効果はなくなってしまいます。

口から投与しても胃や腸で壊れてしまうためか、あるいは吸収されないのか、体の中のSODが増えたという朗報はまだありません。

SODが不老長寿の薬になるかどうかは今のところ不透明です。

ただ、SODはスーパーオキシドを過酸化水素に転換する役割の抗酸化物質ですから、もしSODが増産できても過酸化水素が異常に増加してしまっては意味がありません。

SODの増産は、過酸化水素を消化する抗酸化物質のカタラーゼやグルタチオンペルオキシターゼといった過酸化水素を消去する酵素も同時に必要となり、問題は複雑なことになってきます。

ですから、SODの場合、抗酸化物質の全体のバランスを崩すことは必ずしも良いことではないかもしれません。

 

ビタミンEもラジカルになる

SODは水に溶ける性質の抗酸化物質ですから、細胞質やミトコンドリアなど細胞内の水性の部分で発生した活性酸素を残らず消去するという仕事に携わっています。

これに対して、いっそう問題なのは、エネルギーの生産活動の現場を囲っている生体膜です。

この膜は、不飽和脂肪酸も材料の一つになってできていますから、活性酸素の直接的な攻撃を受けやすく、相当しっかりした抗酸化物質が頑張ってくれないとこの膜は壊されて役に立たなくなってしまい、細胞の機能がマヒしてしまう事になります。

その重責を担っているのがビタミンEなのです。

生体膜は脂肪酸という脂が主材料ですから、油に溶けるビタミンEが一番適しています。

 

ここで少し復習ですが、ビタミンには水に溶けるものと油に溶けるものとに大別されます。

水に溶けるビタミンの代表は、ビタミンB1をはじめとするビタミンB群です。

このビタミンB群は、ミトコンドリアの中の水の層の部分でTCAサイクルエンジンを動かす方の仕事をしています。

 

いっぽう、油に溶ける方のビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK、ビタミンEの4種類があります。

ビタミンEは脂に溶ける特性を生かして脂肪酸を守るようウに寄り添って配置され、襲い掛かる活性酸素を消去しているのです。

 

ところで、ビタミンEは活性酸素やフリーラジカルが発生すると、ビタミンEが持っている電子をそのフリーラジカルに渡して活性酸素やフリーラジカルを消去します。

活性酸素やフリーラジカルは電子が不足していることで悪さをしているわけですから、ビタミンEから電子を補充してもらえれば大人しくなるわけです。

すると、このビタミンEは電子を1個失いますので、ビタミンE自身がなんとビタミンEラジカルになってしまいます。

このビタミンEラジカルは、「ラジカル」といいますが、更に他から電子を奪うといった過激な行動はしません。
大人しい代わりに、次の活性酸素やフリーラジカルが発生しても知らぬふりなのです。

要するに、活性酸素やフリーラジカルの悪さを1度だけ懲らしめるだけなのです。